深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





そこかしこから聞こえるキーボードの音、内線を知らせる電子音。
―――その片隅に私はいて、周りと同じようにその無機質な音を鳴らしている。



「鶴岡さん。悪いんだけど資料室から三年前の伝票とってきてもらえる?」


私は先輩からの指示を受け、手を止めて立ち上がった。
そういう雑用も嫌いじゃない、そう思いながら。



「資料室の鍵借ります」


そう言って先輩から鍵を受け取ると、私は経理部の入口を抜けて資料室に向かう。
そのとき入口のガラスに一瞬だけ映った姿に、私は嘲笑した。


―――地味なパンツスーツに化粧っけのない顔、ショートカットのちっぽけな女。
それが私だった。





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