深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
彼女の寝息しか聞こえないこの部屋。
彼女の頬を撫でる指がちょっとした悪戯心で唇を掠めた瞬間、俺の胸の奥がずくりと疼いた。
(何、考えてんだ…?)
このままただ見つめててもな、と思った俺はそっと環から指を離そうとした。
「………や、ぁ…」
その瞬間、眠っているはずの環が声を上げる。
いつの間にかしっかりまぶたを開き潤んだ瞳で俺を見上げていた。
「い、かない、で」
環は俺の手を掴み、信じられないような強い力でぐいぐいと引っ張る。
「ひとりは、も、…やだ」