深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「…何やってんの私」
頭を抱えて私はそう一人ごちた。
私の身体には抱き締められた感触と芦谷さんの熱が残っていて、一刻も早くこの感覚をぬぐい去ってしまいたくて。
(早く忘れなくちゃ)
それだけを考えて、私はやっと浴室に向かう。
でも、急いで服を脱いで熱いシャワーを頭からかぶって、いくら身体を洗っても芦谷さんの腕の感覚は消えてはくれなかった。
「消えて、消えて…」
これは私には必要がないものだから。
だから、身体中に染み渡る前に消しきってしまいたかった。
…じゃないと。
今まで耐えていた色々が、一気に崩れてしまいそうな気がするから。