深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
触れ合って、熱が伝わって。
心地よかった。けど、これ以上触れちゃいけない。そう思った私は芦谷さんをにらみつけて声を上げた。
「お、ろして。ここ、会社…」
「んな状態の奴ほっとけねぇっつの!少し黙ってろ!」
怒鳴りながらも、私に触れる腕から伝わる熱は優しい。
その熱が私を溶かしてしまう前に。…おかしくなる前に逃げなきゃ駄目だ。
本能がそう訴えてくるから、私は思いの丈をぶちまけた。
「―――もう、…これ以上私にかまわないでください!女に不自由してないんなら、私にかまう理由なんてないじゃないですか?困るんです、こういうの、は!」
そう言いながら数回彼の肩を強く叩くとようやく私を解放してくれて、その隙に私はその場から逃げ出したのだった。