深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「そ、です、けど」
「アンタ、いつの間に芦谷様に取り入ったの?」
そう聞かれ、事態が飲み込めなかった私の顔から血の気が引いていった。
(勘違いされてる…!?)
違う、と言いたいのに声が出ない。
あれは、たまたまで。
少なくとも私にはそんなつもりはなくて。
―――そう返したいのに唇は全く動いてくれない。
「…まぁ、でもこの程度の子に直人様が相手するはずもないか。化粧っ気もないし地味だし、この目の下の隈!…女捨ててるとしか思えないわ」
目の前の人はそう言うと、私の様子を見るなりぷっと吹き出した。
それを皮切りに、そこにいる人たちが一斉に笑い出す。
…トイレの床に座り込んだ私は、とりつかれたみたいにゆっくりと彼女らを見上げた。