深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「な、直人様!…その子、直人様の何なんですか?」
そのとき、この場にいた一人が立ち去ろうとする芦谷さんの腕を掴んでそう叫んだ。
取り繕う余裕もないのか、ひきつった顔で彼を見つめるそのまなざし。
それを見て、芦谷さんは鼻で笑った。
「こいつは俺の大事な女だよ」
―――ぼんやりとしている意識の中で、その言葉だけが頭に入ってくる。
何で助けてくれるの?
私、あんなこと言ったじゃない。
わかんないよ。
この人にとって私は“大事”なの?
………そう言い切った声があんまりにも優しいから、泣きそうになる。
締め付けられるような胸の痛みは、しばらく消えてくれなかった。