深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「環、…ごめんな。俺のせいだ」
私の涙を拭いながらそう言う芦谷さんに、私は首を振った。
「芦谷さん、は、悪くない、から」
涙声でそう返すと、芦谷さんは次の瞬間小さく笑いながら私の髪を梳く。
しばらくそうしていたときだった。
「―――なぁ。…まだ答えたくないんなら答えなくたっていい。環は何が怖いんだ?」
その問いかけに目を見開いて芦谷さんの顔を凝視すると、彼は一瞬躊躇しながらも言葉を続ける。
「夜は寝れてねぇみたいだったのに、俺の前じゃ眠れてた。…なんか様子がおかしかったからよ」
聞かれて、胸が苦しくなった。
その真剣なまなざしで見つめられたらもうごまかしが利かない。そう思えば思うほど唇が震えて止まらなかった。