深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
芦谷さんは私をなだめるようにゆっくりと頭を撫で、私の短い髪を丁寧に手で梳いていく。
それを感じる度に唇の震えが収まっていくようだった。
「……………母親に虐待されてたんですよ」
そう告げた瞬間、部屋の空気が凍り付いた。
「父親はずっといなくて、母親も滅多に家に帰ってきませんでした。…派手な外見で、いつもお酒と香水の匂いがしてて、私のことを疎ましく思っているような母親、でした――…」
思い出すのは、“母”でなく“女”の顔をしている姿。
一度も私を省みることもなく、ペットか何かのように私を飼っていた、あの人。
それでも私は愛されたくていつも手を伸ばしていたんだっけ。