深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
知らなかったのか、とどこか落ち込む様子の芦谷さんに私は度肝を抜かれてなにも返せなかった。
(と、取締役、って)
偉い人だよね?
え、この人見た目若いけど、もしかしてそこそこ年いってるの?
って今まで失礼なことばっかり言って――…
「す、すみませんでした。そんな偉い人だと思わなくて、その」
そう言いかけると、顔面蒼白で焦る私の口に芦谷さんは人差し指を当てて言葉を遮る。
「芦谷直人、今年で27。最近まで大阪の関連会社にいたんだけど社長に言われてこっちに来たんだ。…ちなみに社長って俺の親父のことな」
(え、…えぇ!?)
さらに告げられた衝撃の事実に、私はその場に座り込んでしまう。