深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





ひとしきり笑ったあと、一人になったリビングはしんと静まり返った。



「―――芦谷、さん」


なんとなく名前を呼んでみた。
指で唇をなぞってみても、さっきみたいな柔らかさは感じなくて。


(…ねぇ、芦谷さん)




どうしてこんなに優しくしてくれるの?
どうしてキスしたの?


わかんない。


わかんないけど。


芦谷さんの優しさが嬉しいんです。
でも、どう受け取ったらいいのかわかんないんです。


くせになる前に逃げなきゃいけない、と。
ずっと警告音が鳴っている。





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