深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
7. あなたじゃなきゃ
もしあの言葉が芦谷さんの本音だとしても。
私にはどうすることもできないと思った。
だって、わからない。
“好き”という感情も、私にそんな感情を向ける理由も。
だから、聞いていないふりをした。
―――結局私は経理部所属のまま芦谷“取締役”の下で働くことになった。
急な異動だったため車内ではどよめきが走ったらしいけど、役員室のあるフロアに一般社員は入ってこれないようになっているらしいのでこの間のようなやっかみを受けることもなく、至って平和に仕事をこなしていた。
「環〜、コーヒー淹れて」
…ただ一つ、芦谷さんへの態度を除いては。