深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
『好きだ』と言った声で何もなかったみたいに私を呼ぶ。
夜は平気で私を抱き締めて眠る。
芦谷さんは平気でも私は平気じゃいられない。
…そんな台詞、言われたのは初めてなんだもん。
「…おーい、環?」
「は、はい!?…あ、コーヒーですね」
ようやく我に返った私は芦谷さんからマグカップを受け取り、部屋に備え付けられているキッチンスペースに向かった。
(…怪しまれるよなぁ)
なんだか変に構えてしまう。
あの夜から、ずっとこうなのだ。
相変わらずのパンツスーツでその場にしゃがみ込むと、私は盛大にため息をつくのだった。