深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「あなた、直人さんの猫ちゃんね?」
(………!)
いつのまに私のあとを追いかけていたのか、瀬里香さんは私の後ろに立っていた。
綺麗に、でもどこか見下したようなまなざしに何も言えないでいると、彼女は壁により掛かりながらさらにしゃべり続ける。
「身の程知らずもいいとこ。直人さん狙いの子なんてたっくさんいるんだから、諦めて早く野良猫に戻ればいいのに。きっとそのほう楽よ?野良猫ならこんな風に泣く必要だってないもん」
もうすぐ撮影再開だからね、と付け加えて、瀬里香さんはトイレから出て行った。
…彼女の言葉がぐるぐる回る。
自嘲気味に小さく笑って、私はゆっくり立ち上がった。