深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
………でも、今日は。
「今日は直帰でいいんですよね?」
「あぁ。どっかで飯食ってくか?」
「いえ。…自分の家に帰ります」
そう告げたとたん、芦谷さんのまなざしが鋭いものに変わった。
私はそれにひるむことなく頭を下げる。
「急に何言ってんだ」
「…急にもなにも、普段の生活に戻るつもりです。もう一人でも寝れるだろうし、芦谷さんにもご迷惑をおかけしました。………お疲れさまでした」
そう一気に言って、私は呆然とする芦谷さんに背中を向けて歩き出した。