深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
きっと追ってこない。
だって、芦谷さんの後ろにあるガードレールに寄りかかった瀬里香さんが私を見て笑っている。
きっと今から芦谷さんに声をかけて、二人で飲みにでも出かけるんだろう。
私は久々の我が家に向かいながら、思い立ったようにつぶやいた。
「―――あぁ、清々した!」
そう、思ってね。
「これで自由だ」
そう、言ってね。
そしてその腕で、別の女の人を抱き締めて。
私なんか、なかったことにして。
ただの部下と上司に。
平社員と役員に戻って、仕事だけが私たちを繋いで。