深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
―――それでいいの?
久しぶりに回した安っぽい玄関のドアノブは思ったよりひんやりしていて、そのまま私まで凍り付きそうだった。
(もう触れられない)
不意に思い出した芦谷さんの腕。
あの熱は、とっくに私を溶かしていたんだね。
「………あ、しや、さぁ…」
いつも通りに煌々と明かりのついた狭い部屋。
その明かりの下、私はうずくまって泣いた。
…なんでこうなってから気づくんだろう。
とっくに惹かれていたなんて。
芦谷さんが、好きになっていたなんて――…