深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「何すねてんだよ………こっち向け、環」
芦谷さんから顔ごと視線を逸らした私の顎を掴み、怒ったような視線を向けてきた。
「すねてなんかないですよ!…私はあなたの何でもない、ただの部下です。おかしいのはあなたの方じゃないですか」
―――自分で言ってて泣きそうになるなんて、馬鹿。
目に涙をためて、私は精一杯声を張り上げてそう告げた。
その言葉に唇をかみしめる芦谷さん。
でも次の瞬間、私に腕を伸ばして身体ごと引き寄せてこう言った。
「…そんな風に思ったことなんてねぇ。お前は俺の、大事な女だ」