君のために僕は泣く
歩いて十五分くらいすると玲子たちは郷の家に着いた。


郷の両親は共働きで夜にならないと帰って来ない。


郷にとって唯一二人きりになれる至福の時なのだ。


「俺、飲み物持ってくから先に部屋行ってて。」

「わかった。」


玲子は階段を上がり、突き当たりの部屋と進み、ドアを開いた。


郷の部屋はロック系の音楽が好きなせいかギターや音楽関係のものが中心的に置かれている。


玲子はいつも座る黒いソファーに腰掛ける。


程なくして、飲み物を持ってきた郷が部屋へと入ってきた。


「ほい、ココア。」


「ありがとう。」


郷から玲子は冷たいココアを受け取り、一口飲んだ。

甘いココアが口いっぱいに広がった。


「玲子。」


郷は名前を呼びながら、隣に座ってくるなり抱きしめてくる。


「近いわ。」



玲子が離れようとするとさらに力を強めて逃げないようにしてくる。


「痛いって。」


「だって玲子が逃げようとするから。」


子供が拗ねたように口を尖らせて郷は玲子を見る。


「郷はいつも距離感近すぎなのよ。」


玲子は呆れたように笑う。
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