未恋 ~東京卒業物語~
「…!」
あたしは“ハッ”として両手で口を押さえた。
「は、花火見てたら、田舎に帰ったみたいな気持ちになっちゃって、思わず“なまり”が出ちゃいました……」
「フッ」と笑う彼。
“ホッ”と一安心して微笑むあたし。
笑って花火を見上げている涼平くんとあたしがそこにいた――――
どこの誰でも受け入れて、ドラマの主人公にしてくれる夢の街。東京はそーいう街だ。
だって博多じゃ、男子と手をつなぐことさえなかったあたしが恋愛ドラマのヒロインだし。
夜の街を走る涼平くんの四駆のクルマ。
そのハンドルを握る彼が助手席のヒロインにやさしく訊いた。やさしく、やさしく…。
「どう? 疲れてない?」
「ずっと上向いて花火見ていたから首がちょっと痛いです」
「そっか」
彼は真正面を向いたまま怖いくらいの真面目な顔で……でも確かに、そして微かに笑ってハンドルを左にきった。