未恋 ~東京卒業物語~
…って言いながら、いつもその後ろについて回ってた記憶がある。
マサ兄ぃのご両親は、マサ兄ぃが高2のとき、交通事故で二人いっぺんに亡くなった。
だから、それ以来、あたしの両親は実の息子のようにマサ兄ぃの世話をしていたし、あたし的にはマサ兄ぃが、本当のアニキになったみたいな気がしていた。
「おはよう♪ ねぇ、マサ兄ぃ、外を見ちゃりぃ? 雪、積もっとぉよ、雪♪」
「知っとぉ…」
そう言うとマサ兄ぃは「はァ…」って、ため息をついた。
「なんで、ため息なんかつくとぉ? マサ兄ぃは雪が積もって嬉しくなかや?」
あたしは“ぷっ”とほっぺたを膨らませた。
「スキーにでも行かんかぎり、オトナになってからの雪なんか、単に厄介な存在でしかなか。寒いし、足が滑って歩きにくいし、おまけに交通手段を麻痺させるばい」
そーいえば、ひと月前、マサ兄ぃは雪で道路が大渋滞して仕事に大遅刻したんだっけ。
冬の朝、目が覚めたとき、たとえ窓の外が一面の銀世界に変わっていたとしても、心がはしゃいでしかたがないヒトと、その反対のヒトとがいる。