未恋 ~東京卒業物語~

あたしは了解も得ないまま、まるで自分の家のように勝手に上がりこむと、スカートの前を押さえながらトイレに駆け込んだ。


「ザァーッ…」


サッパリした気持ちでトイレから出てくると、マサ兄ぃは洗面台でヒゲを剃っていた。


あたしはマサ兄ぃをビックリさせようと、一度家の外に出て“あるもの”を作ると、ソレを冷蔵庫の冷凍室の中に入れた。

“アレ見たらマサ兄ぃ、どげな顔するやろ?”

そう思ってふくみ笑いを浮かべながら、あたしはエプロンをつけて、マサ兄ぃのお弁当を作りはじめた。

「フフフ~ン♪」

いつもは面倒にしか思えないお弁当作りも、今朝は鼻歌交じりでこなすことができた。


「弥生ちゃん、いつも弁当作ってもろうてホントありがとな」

ほどなく身支度を終えたマサ兄ぃが台所にやってきたんだ。

「マサ兄ぃ、悪かばってんくさ、冷蔵庫から冷凍食品ば取ってきてほしかぁ。たしか“ひとくちカツ”がまだ三つ残ってたとよ」

「おぅ、よか、よか」
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