夕日塔の約束
思考能力が途切れた。


何が起こったのかついてゆく事が出来ずに、呆然と目の前の元カレを見上げる。


外から聞こえる鳥の鳴き声が、やたらと大きく感じられた。


「……………は?」


口を丸く開けて、それだけを返す。


「また、オレの彼女になって欲しい…………夕穂」


彼は再び私の呼び方を呼び捨てに戻すと、大股でこっちに歩いて来た。


“来ないでよ”


“名前で呼ぶな言ったでしょ”


こう言いつけてやりたいのに――――……言葉が出てこない。


とうとうヤツは、直立不動の私のすぐ前まで来て、立ち止まった。
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