初恋図鑑【完】
もし、もし五十嵐くんがこのことを知っていたのだとしたら…無視をしていたのは…私のためということになる。
『!違う!無視したわけじゃ…』
あの時、五十嵐くんが言っていた言葉が頭をよぎる。
『っ!五十嵐くん…』
ようやく私は、グランドの木の下に座っている五十嵐くんを見つけた。
先輩たちは、まだ来ていないらしく周りには誰もいない。
『………安藤?』
走って近づいてくる私に五十嵐くんは目を見開いていた。
『はぁ…はぁ…五十嵐くん…』
『どうかしたの?そんなに急いで…てか…よかった…もう口きいてくんないんじゃないかなって思ってたから…』
不安そうに私を見つめながら五十嵐くんはそう言った。
『……聞きたいことがあるの……白石さんたちのことで…』
その瞬間、あからさまに五十嵐くんが動揺した。
『…もしかして…白石たち…安藤に何か…してきた?』
…やっぱり…知ってたんだね…
冷静に聞いてきた五十嵐くんは、心配した声で私に問い掛けてきた。
『…ううん……五十嵐くん…私…何も知らなくて…あの日五十嵐くんがわざと無視してくれてたなんて……さっき…教室で白石さんたちの話聞こえてきて…もしかしたらって…私、五十嵐くんにヒドイことを…』
そこまで言うと、じわりと目に涙が浮かぶ。
『…いや…あやまるのはオレ。…少し長くなるけどさ…話聞いてくれる??』
柔らかい笑顔を浮かべながらそう言う五十嵐くん。
『うん…』
私は静かに頷いた。