あなただけを愛したい
「でも、学校で柑那を抱き締めるとか、教師失格だろ?」



いつの間にかすぐ隣に立っていた竜一が、不機嫌そうに言葉を放つ。


卒業式の話だよね?



「あれは、竜一がいつまでも離さないからでしょ?」



あたしが何度も、肩に回された腕を“離して”と言いながら振り払っていたのに、その手を離すどころか、さらに力を込めたんだよね。



「もう一回試してみる?」


「は?」



意味がわからず、竜一を見上げたとたん、竜一は肩を組むどころか、あたしを抱き締めてきた。



「ちょっ、離してよっ!」



そう言って、竜一の胸を押すけれど、男の力に適うわけがなくて……


ほんとにこういうことはやめてほしい。



「離せ」



気付けばすぐ傍まで来ていた、航の低い声が響く。


でも竜一は、抱き締めた腕の力を緩めない。



「柑那を離せって言ってんだろ?」



今までに聞いたことのないようなドスのきいた声。
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