あなただけを愛したい
“土原柑那”として付き合い始めてからは、まだ海へは行ったことがない。



『夏には、海へ泳ぎにいこうな』



航とはそう約束したけれど……


あたし達に夏は、やってくるのかな――…?




そんなことを考えていたら、いつの間にかポロポロと涙が溢れてきて


止まらなくなった。



「柑那ー、大丈夫?」



お姉ちゃんがやさしく声をかけてくれるけれど、あたしは



「ん」



と、声を出すのが精一杯で、お姉ちゃんもそれ以上は声をかけてこなかった。



ずっと顔を伏せて泣いていたら、いつの間にか海に着いていた。


車から降りて、海を眺める。



『わぁー、綺麗!』



航と海を見た時の、一言目がこれだった。


今、ついその言葉がこぼれそうになり、唇にぎゅっと力を入れて、口を固く閉ざした。
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