あなただけを愛したい
「柑那」



隣に座る竜一の口から放たれたやさしい声。


それと同時に、ふわりと抱き締められた。



「竜、一?」


「もう、忘れちまえよっ!」



絞り出すようにそう言った竜一は、抱き締めている腕に力を入れた。


こんなふうに、航以外の人の胸には甘えたくなかった。


頼りたくなかった。


でも……


さっき見たあの光景が、あまりに辛くて、あまりに胸が痛すぎたせいか……


無意識のうちに、あたしは竜一の温もりを求めるように、そのまましがみついてしまった。


そして……


その胸で泣き続けた。
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