愛★ヴォイス
「いや、でもですね……あ、真下さん!真下さーん!」


私の姿に気付いた彼が、ぴょんぴょんと飛び跳ねてアピールしている。


(そんなことしなくても十分目立ってるって)


黒ずくめの衣装に、カラコン、そして私が渡したブレスレット――完全な彼の“仕事着”だ。


「すみません、彼、私の知り合いなんです」


警備員さん二人に何度も頭を下げて会社を出る。

彼らの言うとおり、ここはとにかく敷地を出なければ目立って仕方がない。


「真下さん、良かった。出社されてたんですね。すごい酔ってたから俺心配で――メールの返事もないし……」


敷地を出た脇にある遊歩道に出る。

慌てて出てきたからコートを羽織ることを忘れていた。

鞄も手にしてなければ、仕事だってまだ残っている。


ここまで来てしまってどうしよう――と最初の一言を発することも出来ずにためらっていると、ふわりと両肩が暖かくなった。

彼が自分のコートを掛けてくれたのだ。


(桐原さんこそ、風邪なんか引いちゃいけない――)


思ってコートを返そうとするが、力強く押し返された。

私の胸の前でぎゅっとコートの端を合わせたその手で、今度は私の両手が包み込まれた。


黒の手袋に彼の白い吐息が重なる。


「真下さん、俺、なんか悪いことしました?家まで上がったことですか?声なんか送った所為ですか?」
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