愛★ヴォイス
乾杯のシャンパンだけで、目が回りそうな動悸を押さえる。


見たことがあるのも当然だ。

私は桐原周也の宣材写真をネットで先に見ていたのだ。



ーーそれは、遡ること数年前。

私は深夜アニメで一瞬だけ聴いた男子生徒の声に一“耳”惚れした。

しかし、その時点では男子生徒役が複数居たために、クレジットで名前を特定するには至らなかった。

ところが今年に入ってすぐに買ったBLCDで、私はその声と再び出会うこととなる。

【警官 桐原周也】

裏の組織で暗躍する主人公たちを追いかける刑事に、情報を提供する町の警官役という、本当に数行の台詞しかない端役ーーでもそれがきっかけで名前を知ることが出来た。

桐原周也。グリーンズプロダクション所属。

公式プロフィールにアップされていたサンプルボイスを飽くることなく繰り返し聴いた。

本当に、本当に、やっと出会えた奇跡の声だった。


(その声の持ち主が、今、目の前にいるなんて)


自己紹介も一通り終了し、食事もこれからという時だったが、私には食事どころか呼吸もままならない状態だった。

「えっと……真下……さん?大丈夫?」

さすがに正面に座る男性(確かキクチだったか)は私の異変に気付いたようで、私はやっとの思いで席を立った。

「真下さん?」

「……あの……お手洗いに……」

言いかけてがくりとテーブルに手を突いてしまい、テーブルクロスに引っ張られた食器が一斉に音を立てた。
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