愛★ヴォイス
沈黙を破ったのは桐原さんの方だった。


「えっと、S駅で乗り換えなので外回り……です」

「ああ、じゃあ俺は逆回りなんで、H駅でお別れですね。本当にお世話になりました」


荷物を抱えた状態で、桐原さんが頭を下げる。

私は慌てて首を振った。


「いえ、本当に……私は役に立ってないですし……逆に知らないお店をたくさん知って、楽しかったです」


お世辞でも何でもなく、これは心からの言葉だった。

デザインが気に入ったショップでもらった名刺は、手帳に挟んである。

レナに至っては数店で買い物をして、次のカードの引き落とし金額が怖くてみれないと嘆いていた。


「それは良かった。俺も翔さんの服選びは参考になりました。役に合わせた服ではなくて、自分に合う服を探すのは、とても新鮮でしたし」


そんな会話を交わしている内に、最初に待ち合わせをしたH駅改札前に戻ってきていた。


並んで改札をくぐり、左右に分かれる階段の手前で立ち止まる。


「歩き疲れたと思うので、ゆっくり休んでください」


では。と片手を上げて階段に向かう桐原さんのコートの裾を、私は無我夢中で引っ張った。


私の鞄の中には、まだあのレザーブレスが包まれたままでいる。



「わ!わっ――っ……っとっと!」
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