愛★ヴォイス
(まさか“あなたの声が原因です”なんて言えない……)


私たちは連れ立ってその公園を目指した。

私の身長は171センチで、女としてはかなりの高身長なのだが、彼もかなり背が高い。

おそらく185はあるだろう。

店を出るまで肩を貸してもらっていたが、ここまで自分を見下ろされたのは初めてだ。

「ああ、ここです。真下さんはそこのベンチに座ってて下さい。俺適当に買ってきます」

「あ・でもーー」

返事も聞かずに自販機に向かって行ってしまった。

仕方なく言われたとおりにベンチに腰掛けて彼を待つ。

水のペットボトルを差し出す彼に、私はとにかく謝った。

「すみません、こんなことにお付き合いさせてしまって……」

「俺は後で飯さえ食えれば問題ないっスから」

言いながら缶コーヒーを口に含む。

「自己紹介で言ったことは、冗談でも何でもなくて、事実なんで。三田は大学の時の演劇仲間なんですが、面倒見が良くて、中退した俺なんかにも何のかんのと理由付けて、こうしてタダ飯食わせてくれるんですよね。居酒屋なんかだと俺の声すごい便利らしくて」

聞きようによっては皮肉にも取れる台詞だが、彼の表情はとても晴れ晴れとしていて、とても卑屈には見えない。

「だから俺のことは本当に気にしないで下さい。真下さんの方こそ、誰かお目当ての男性がいたんなら、俺から三田にそれとなく伝えておきますよ」

魅力的な声で、そう言ってにっこり微笑む。

その笑顔に、私は無意識の内につぶやいていた。


「……桐原さん」
< 8 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop