ぷらっちなむ・パーフェクト
すべての力を使い果たしたと思われた膝と腕に力が湧いてくる。なんだか、もう少しがんばれる気がした。

諦めかけたいつもの自分にタックルを喰らわせ、頭の隅の隅へと追いやっていく。

小さい頃、いじめっ子に泣かされて帰った時の信の言葉を思い出す。

「ここだここ。ここを前に出せ。ここが引けてるから気持ちでも負けちまうんだ」

股間をむんずと掴まれ、ひぁー! と情けない声を出す幼い頃の自分。

頭の奥の方に埋もれていた記憶が鮮明に蘇る。

巨大魚に振り回されながらも、奈津は腹に力を入れ、信に言われた通り腰を前に突き出す。

この追込まれた状況で、絶妙かつ的確なアドバイスだった。

引けていた腰が前に出る。背筋が伸びて顎が引ける。

巨大魚の後姿しか見えていなかった視野が広がる。小さい波の一つ一つが見える。巨大魚の予備動作が見える。

奈津は珍しく信に感謝した。たまには良いこと言ってくれるじゃん。

懇親の力をこめてリールを巻く。それまで錆付いているんじゃないかと思うほど重く動かなかったリールが、少し、ほんの少しだけ回った。
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