たまゆら。


檻から逃げ出したかった彼。
その檻の中だって、決して悪いわけではないのに。

外に出たがった彼を、私は手助けした。



――外なんかに出ちゃうから。
彼は私みたいなものに、引っ掛かって身動きが取れなくなってしまった。




「はい。…まぁ、まだ怒ってばかりですけど。でも、なんとか」

「しっかり勉強して親孝行しなよ」


そうたしなめると、電話の向こうで彼が笑った。


「それ、ユッキーにも言われたんですよ」

「…え。ユッキーが?」

「はい。恵まれてるんだからちゃんと勉強して親孝行しなさいって言われちゃいました」



ユッキーが。
あの子がそんなこと言うんだ。

…というより、蒼ちゃんにそこまで心を開くなんて思っていなくて。


私は思わず、「変わったなあ…」と呟いていた。



娘なんて、親の手の届くところにいるようで、いない。
いつのまにか成長して、いつのまにか変わっていく。


人間関係のあれこれなんてものは、大人になったって、誰もがずっと悩みつづけるけれど。



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