たまゆら。
先輩は少し苦笑いをしながら続けた。
「でも、篠原さんのぶんだけ聞いたら、なんか感じ悪いというか、ややこしくなりそうだし。美奈子ちゃんと仲がいい有紗ちゃんだっけ?…あの子の連絡先も一緒に聞いたんだけど。
今考えたら、完全に女たらしだと思われちゃう行動だよね」
私は思わず小さく笑ってしまった。
悪い人には思えなかった。
私の連絡先だけ聞いたら、私が美奈子に反感を買うと思ったんだろう。
だから先輩なりの気遣いだったんだ。
「…女たらしだと、思われてますね。完全に」
「やっぱり!?…やっちゃったよ」
先輩は頭を抱える仕草をしたけど、そんなには気にしていないようで、すぐに顔をまた私に向けた。
「篠原さん」
「…はい?」
「下の名前は、ユキノだっけ」
「はい。だから、ユッキー」
「俺の下の名前は知ってる?」
数秒たりとも考えずに、私は「知りません」と答えた。
中川先輩はちょっとショックを受けたような顔になる。
…申し訳ないけど、人の名前を覚えるのは苦手。
しかもたいして興味がない人は余計に。