記憶が思い出に変わる時(仮)




「あれ…」


視界に入ったのは
花瓶の中の大きなピンクの花束。


まるで桜みたい…


「これ…日向が?」

「違うよぉ?パパだと思う…」

「…思う?」

「起きたらもう置いてあったの~っ」



…そういえば
あたしは結構椎名ちゃんのお見舞いに来てるのに、
日向と椎名ちゃんの親に出くわしたことがない。


聞いていいものか…

一瞬のためらいは
聞きたい欲にかき消された。

「椎名ちゃんのパパ、優しい?」

「うん!パパね、この病院のお医者さんなんだぁ~っ」

「えっ⁈」


…なるほど。

だから会わなかったんだ。



いや、会ってても気づかなかったんだ…


1番、椎名ちゃんの病気を知ってるのは
お父さん…なんだ…


「…お母さんは…?」

「ママはアメリカってとこでお仕事してるんだって、おにーちゃんが教えてくれた!」


椎名ちゃんはベッドの近くの棚から
雑誌を1冊取り出して広げてみせた。


「これ、この人ね、しぃのママ!」

「…え…」

椎名ちゃんが指差すのは
あたしの大ファンな有名なモデルだった。

そう言われてみれば、
似てなくもないような…



世界って狭いんだね…


あれ…でも、
この人がアメリカ行ったのって
確か4年前とか…

お母さんのこと覚えてる…?


そう聞こうとして
やめた。

2歳か3歳…
覚えてたって、

曖昧でしかないはず。


日向と椎名ちゃんは
ずっと2人で支え合ってきたんだね。


お互いが
それくらい大切…


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