記憶が思い出に変わる時(仮)
「ゆーりちゃん…?」
ハッとして顔を上げた。
「ごめんっ、ちょっと考え事してて…」
「ゆーりちゃんのパパとママはぁー…?」
「…あたしの…?」
純粋なこの子に
言ってもいいものなのかな…
「お父さんはいないよ。…お母さんは…会ってない…かな」
「えぇ~?じゃあゆーりちゃん、寂しいよぉ…」
「…」
それは
「椎名ちゃんはさみしくないの?」
「しぃにはおにーちゃんがいるもん!」
小さなこの子の強がりなのか
この状況に慣れすぎて
普通の事なのか
笑顔が眩しいくらいで
自分が小さく、
目の前の少女よりも小さく思えた。
「泣いてるのぉ…?」
「違うよ…ごめんね…」
そうは言っても
流れてくる涙を
あたしは止めることができなかった。
「お兄ちゃんのこと…好き?」
「うんっ!だーいすき!!」
すべて見せてくれる椎名ちゃん。
あたしも椎名ちゃんに応えよう。
「あたしも…あたしもね、日向のこと好きだよ…」
「本当?!おにーちゃんのこと好き?」
「ん…好きだよ…あ、でも日向には内緒ね?」
「じゃあゆーびきりげんまんっ」
「しぃね、ずぅーっと知ってたよ!
ゆーりちゃんが
お兄ちゃんのこと好きなこと……」
「ごめん、眠いよね…?」
「さっきお薬飲んだからぁ…」
「ゆー……」
「なに?」
「本当…に、お兄ちゃん…好き?」
何度も何度も
椎名ちゃんは繰り返す理由を
あたしは知らなかったよ…
「うん、…あたし日向のこと…好き」
一瞬だけ
柔らかい笑顔を見せて
椎名ちゃんは眠りについた。