記憶が思い出に変わる時(仮)
「では、服部さん。退院ですが、決して無理はしないようにね。」
「…」
「娘さん、だったかな」
「…はい」
「お母さんのことちゃんと見ててね」
見てて…?
何処にいるかも分からないのに?
返事が出来ずにいると
看護師さんが出て行くように指示した。
「ありがとう…ございました」
なんであたしが
礼を言わなければいけないのか、
当の本人は黙ったまま。
玄関まで来ると
大きく伸びをしてあたしにこう言った。
「あーあ!一日分の稼ぎがなくなった!お金も取られたし、本当迷惑。」
「…」
「あんた1人で帰りなさいよね」
“どこ行くの?”
なんて聞けるはずもなかった。
どうせ男の所。
この人は懲りることを知らないみたい。
あたしはお母さんと別れたあと、
“ある場所”へと向かった。