記憶が思い出に変わる時(仮)
玄関に行けば、
人影が見えた。
「日向」
「…久しぶりだな」
「いつも会ってるよ…?」
こうして2人で話すのは
確かに久しぶりだった。
あたしの言葉に
笑ってくれる日向に
安心してる自分がいたんだ。
「椎名ちゃんのとこ?」
「ん、そう。しぃが“ゆーりちゃん、ゆーりちゃん”って言うから」
「本当?嬉しー!」
「お前のお母さんは元気?」
「…うん、多分ね」
「そっか」
由衣はあまりあたしのお母さんの話をしない。
それが由衣の優しさ。
あたしも、由衣に
お母さんの姿は見せたくなかった。
でも日向にお母さんの話をされても
全然嫌じゃなかったんだ。
もう…見てるもんね。
チラッと日向を見れば、
日向もあたしを見ていた。
「な、何…?」
「いや…」
「?」
日向の表情は読めない。
でも、一瞬表情が曇ったのを
あたしは見逃さなかった。
「しぃが…高校生になったら、
…どうなんのかと思って…」
「え…?」
日向の声が
消えてしまいそうなほど
弱々しくて思わず…
「ゆ…うり…?」
抱きしめてたんだ。