鏡【一話完結型】
旭はいつしかそんな疑問を持ち始める。
だが、それを妻に確認する事なんて出来ない。

妻を悲しませる事はわかっていたし、何より旭は妻の事を愛していたし、信頼していた。

そんな妻を疑う自分が嫌になるが、その思考は止められない。


普通は思わないだろう。
こんな事。
似てないんだな、と流すかもしれない。

だけど、弘喜の顔が…妻の昔の男に似ていたからだ。


だからこそ、怖くて、聞けなかったのだ。

そんな時に、この洋館の噂を聞いた。
馬鹿馬鹿しいと誰もが笑ったけど、自分はチャンスだと思った。

そんな藁にも縋る様な気持ちでここに旭はやって来たのだ。



『……誰だ』


急にどこかから声がした。
旭はびくっとしながら、懐中電灯で辺りを照らす。

くるっと一周するが、誰もいない。



(…まさか)


旭はゆっくりと、視線を鏡に移す。
大きな、等身大の旭が映っているその鏡に。
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