鏡【一話完結型】
『……呼んだろう』

「……………」


また声がして、旭は確信する。

確かに、何かがそこにいる。
写った何かは、女の様な、男の様な、若い様な、年寄りの様な。

ぼんやりとした姿だった。


『……先ず聞く、主』

「……はい」

ごくりと、生唾を飲み込む旭。
喉はカラカラだった。


『それを知ってどうする。真実を知って主はどうする』


(知って……どうする?)


まさか、そんな事を逆に問われると思っていなかった旭は唸る。

どうする?
YESならこのまま?
NOなら別れる?


そんな、疑問。
ずっと、ずっと旭は自分自身に問い続けてきたのだ。


「……何もない」

『では、主は真実を知ってもそれを妻に伝える事はないと?』

「…そうだ」

『承知した。では、再度我に問うといい』


旭はぼんやりと映る姿をじっと見据える。
そして、はっきりとした口調で尋ねた。
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