鏡【一話完結型】
『楽しい、とは何だ』

「は…?」

『楽しい、の感情がわからぬ。笑うも泣くも怒るもわからぬ。
だから、今主がそんなに興奮している理由も理解出来ぬ』

「………なんて…」

それに風子は絶句した。


(…なんて、寂しいのだろう)


震える手で口元を抑えると、風子は切なさで胸がいっぱいになった。


「……可哀想」

ぽろっと、呟いたのは響子。
風子と同じ気持ちだったのだろう。

響子も眉根を寄せながら、風子の手を握る。
それを風子も返した。


『可哀想?』

鏡の主は全くわからないと言った感じで、四人に問いかける。
その問いに答えることなく、強い口調で言ったのは信人だった。


「…見てろよ、鏡」

『………』

「俺達はずっと一緒にいてやる。仲良しでずっと」

『………』

「俺も、誓ってやる」


南も信人の隣に並ぶと、鏡の主に言った。
響子も風子も、顔を上げて頷いた。

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