鏡【一話完結型】
(鏡、なんてどこだよ…)
もう、聞きたい事なんていい…そう、挫けてしまいそうな時だった。
『……弘喜』
肩をビクっと揺らしながら、弘喜は顔を上げた。
どこから…?
今の声は。
確かに、弘喜の名前を呼ぶ声がしたのだ。
弘喜は畏怖する気持ちと裏腹に、勝手に吸い込まれるように進む足に戸惑いを隠せなかった。
頭では進みたくないのに、その場所へと進んでしまう。
意思とは反対に、歩みは早まり弘喜は一つの扉の前に辿り着いた。
再度、生唾を飲み込むと弘喜は意を決してその扉を開けた。
頑丈なその扉はギィと軋む音を立てながら、少しずつ開いて行く。
完全に扉が開き、弘喜はまた一歩一歩足を進める。
部屋一面を懐中電灯で照らして――――――それを見つけた。
(…………)
一人の人間を圧倒してしまうほどの、大きな鏡。
どでかい鏡の前に立つと、弘喜は懐中電灯でその鏡を照らした。
反射の眩しさで目を細める。
そして。
――――見た。
鏡に映る何かを。
その映った何かは、女の様な、男の様な、若い様な、年寄りの様な。
ぼんやりとした姿だった。