鏡【一話完結型】
「俺の…、俺の父親は誰なんだ」

『真実を知りたいか』

「………知りたい」

『知ってどうする?』

「じゃあ、何で知らなくていいと思うんだ」

『旭を父親だと思えるだろう』

「思えてたらここに来ない!」

『何故だ』


弘喜は舌打ちを鳴らす。
堂々巡りの、鏡の主との会話に苛立ちを隠せなかった。


「お前が何て言ったかは知らないが、その所為で俺の両親は離婚したんだ!」

『それは間違っている』

「何がだ!?」

『どちらの回答をしようとも、結局は離婚をする』

「そんなわけない!」

『では、主に問う。
旭の質問を知っているか』

「……、し、つもん?」


弘喜の父親の筈の旭が、この鏡に何て質問をしたか。
それを直接弘喜は聞いた事がない。
だから、知っているわけなかった。


そんな弘喜に鏡の主は淡々と、その事実を伝える。


『旭は、“弘喜は自分の子供なのか”そう、我に問うた』

「………え」


鏡の主の言葉は、想像以上に弘喜の心にダメージを与えた。
父親は誰だ、そう思っていた弘喜だったが。
心の奥底ではきちんと、旭を父親と認識していた。
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