鏡【一話完結型】
その旭がこの鏡にそう、質問をしたのなら。


「……その、答えは…」


弘喜の気になるのは、答え。それのみだ。


『旭の子だと、告げた』

「…………っ」


旭の目からは自然と、涙が零れた。
質問だけ。それでも、相当のショックを受けたのに。
旭はそれを、信じずに弘喜は自分の子供でないと疑ったのだ。


「…う、くっ……」


次々と溢れる涙を、弘喜は何度も何度も拭う。
鏡の主はそれを黙って見つめた。


「ひっ、そ、か、…俺、親父の、子供だった、んだ」


最初はショックと、悲しさで涙をボロボロと流した弘喜だったが、父親は旭だと知って安堵したのも確か。
ただ、糠喜び出来ない衝撃を持ち合わせていたけれども。

そんな弘喜に鏡の主は残酷な言葉を告げる。


『それは違う』

「………え?」

『主の父親は、旭より前に母親が関係を持った男だ』

「…………」

『それが真実』


弘喜は一気に心が冷えて行くのを感じていた。
それから、床に落ちた既に故障している懐中電灯を手に取る。

その懐中電灯を弘喜はゆっくりと頭上に持ち上げると、鏡目がけて投げた。


ガシャンと、音がして。
壊れたのは…懐中電灯だった。

辺りに散らばる懐中電灯の残骸を鏡の主は見下ろすと、抑揚のない口調で言う。
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