鏡【一話完結型】
『無駄な事を。この鏡は割れない様に成っておる』

「嘘なんて…何でついたんだ!」

『さっきも告げた筈だ。どちらを告げても結果は一緒だったと』

「ちげえ!!」


弘喜はでかい声でそう怒鳴った。
それから、キッと鏡の主を睨みつける。


「もしも、あの時に“違う”と伝えていたら俺の“親父”はあそこまで苦しまなかったんだ!!」

『苦しむ?』

「そうだろ?違うとわかっていたら、母親と喧嘩だってしてなかった筈だ!
離婚してても…もっと、違った…」

『離婚する。その事実に相違ない。ならば、どちらを告げようが真実だろう』

「ふざけんな!お前は受けなくてもいい苦しみを親父に与えたんだ!」

『苦しみ、とは何だ』


この鏡の主の質問は、決して弘喜を馬鹿にしてるとかではない。
本当にわからないのだ。

だけど、頭に血が上っている弘喜は更に鏡の主を責め立てる。


「何でわかんねーんだよ!
お前に俺の苦しみなんてわかんねえ!!父親が誰かわからない恐怖って言うのは!!」

『主の父親は前の男だ』


冷静に返す鏡に、弘喜はカチンと来る。
怒りで頭が煮えたぎり、抑える事が出来ない。
< 35 / 55 >

この作品をシェア

pagetop