鏡【一話完結型】
その洋館に訪れる人が一人。
例え季節が移り変わろうとも、その洋館が変わる事は決してなかった。
毎日、同じ様にそこにそびえ立っていた。
全てを侵食しようと伸びる蔦が、壁にへばりつく。
そのサマを見て、その女はぽつりと呟いた。
「……そのまま、飲み込まれてしまえばいいのに」
どうしようもなく、冷めた声だった。
低く温度の通ってない声は、静寂に飲み込まれていく。
見た目からは全く以て想像つかない自らの声に、女は自嘲気味に笑った。
(別に誰も悪くなんてないのに)
そして、女は顔を上げると意を決して洋館の中へと足を踏み入れる。
ギィィという扉の軋む音。
それに微かに顔を歪める。
埃の臭いが立ち込めていて、そこに人の気配はなかった。
一歩ずつ、奥へと進んで行く。
女は迷うことなく、足を進めて行くとある部屋に辿り着いた。
暗くて視界はよくない。
だけど、スマホの灯りを頼りにその場所まで進んで行った。
その洋館の一番奥にあるこの部屋。
そこには、何でも答えてくれる鏡があった。
都市伝説として噂されていたそれを、女は知っていた。
だって、彼女は過去に一度だけここに訪れた事があるのだから。