鏡【一話完結型】
鏡に写った何かは、ゆっくりと口元を緩ませた様に見えた。

それからまた喋り出す。


『その答えは違うだろう』


(やっぱり)

利美はそう思う。
だけども、鏡の中の声は更に続けた。


『その男はお前を“愛してなどいなかった”』


「……え?」

利美は意味がわからずに、再度聞き返す。

だけども、鏡の中から聞こえる声は抑揚なく、淡々と繰り返す。


『その男はお前を愛してなどいなかった』

「…………」

理解した利美はそれに愕然とした。


最初から、悠斗は利美を愛してなどいなかった。


だから、愛している、愛していないなどの問いはそもそもが間違っているのだ。

最初から他に愛している人がいたのだから。
< 7 / 55 >

この作品をシェア

pagetop