サクラに願いを
「やっぱり、もう、見えないんだなあ」

寂しそうなカヨちゃの声に、オイラも寂しくなった。
カヨちゃんの手には、1枚の写真があった。

カヨちゃんが子どものころ、ここで撮った写真だ。
隣にはオイラが並んでいる。

「昔は、ここに写ってる桜太が見えたのに。もう、私しか見えないの。あの日から、ずっと、一人ぼっちの写真になっちゃった」

そう言ったカヨちゃんは、泣き笑いの顔をして、木の根元を少しだけ掘った。

‐なしてんだよ、カヨちゃん

話しかけても返事はない。
オイラはまた寂しくなった。

「桜太。あのね、私、お嫁に行くの」

‐そうか。カヨちゃんは、今度はお嫁さんになるのか。


それが人間の営みだ。
そうやって人間は、家族を作っていくのだ。
オイラが神様であるように、カヨちゃんは人間だ。
カヨちゃんは、人間の営みの中で生きていくのだ。


‐おめでとう

「これ、私の宝物だった。一番の宝物だった」

小さな穴を掘ってカヨちゃんは、また写真を見つめてそう言った。

「ここに埋めていくね。話し相手が欲しくなったら、見てね」

‐埋められちまったら、見られないかもなあ


カヨちゃんの言葉に、オイラは笑った。
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