サクラに願いを
「桜太。結婚したら、私、遠くに行くの。今いるところより、もっと、遠いところに行くの」

‐そうか。遠くに行っちゃうのか。


「もう、会いに来れないかもしれない。でも、忘れない。私には、神様の友だちがいたこと、絶対、忘れないから。神様が初恋の人だなんて、すごいよね、私」

ポタポタと零れ落ちるカヨちゃんの涙を、オイラは拭ってやることもできなかった。

蹲るようにして、声を殺して、カヨちゃんは泣き続けた。

そうして、泣くだけ泣いたカヨちゃんは。

笑顔で、オイラを見上げてくれた。


ああ。
オイラが1番好きなカヨちゃんの顔だ。


その笑顔を、オイラはただただ見つめ続けた。

「桜太。ねえ、遠くに行っても、私のこと見つけられる?」

‐がんばればな。

「桜太。約束して。私が死んだら、迎えに来て。きっと、桜太のほうが長生きだから。約束だよ。必ず、迎えに来て。そしたら、たくさんお話しよう。また、いっぱい。お話しよう」

カヨちゃんは、白く細い腕を伸ばして、桜の幹に手を触れた。

カヨちゃんのきれいなきれいな笑顔を見つめ、それからオイラは夜空を見上げた。


まだ、ちょっと早いけど。
がんばれば、できるべ。


思いきり。
夜の空気を吸い込んで、オイラはありったけの力を込めて、夜空の下で花を咲かせた。


‐カヨちゃん。約束だ。必ず、迎えに行く。


咲き始めた花に気づいたカヨちゃんは、嬉しそうに笑ってくれた。


‐ありったけの願いを込めて。お嫁さんになるカヨちゃんが幸せになりますようにと願いを込めて。
‐ありったけの誓いを込めて。大好きなカヨちゃんとのたった一つの約束を果たすからと誓いを込めて。



それは、願いと誓いの証しの花だった。
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