罪語りて所在の月を見る


「夜風が寒いから、帰りましょう。――伯母さん」


何年ぶりかのその呼称がやけに耳に残った。


伯母さん――
母の姉にあたり、渉を預かり、そうして、渉のせいで狂った人。


あの日の不運を思い出し、ぎゅっと渉は唇を閉めたが、言ったからには戻れないと、風邪を引きますよ、と続けた。


本人はなぜそんなことをしたのか自覚はないが、変わりたかったのだろう。


阿行たちに楽しめる生き方を教えてもらい、見てしまった。


流刑の地で罪人が見た月に対して思ったように、その美しさを罪がない身で見てみたいと――幸せを知った渉が、罪と向き合った。


所在にあった月。人の姿をした光。暗き場所にいた渉がより願ったその淡い輝きを、まっさらな心で見つめたいと、渉は変わろうとした。


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