今の君を忘れない
『瑞希?切るよ?今ちょっといそがしいんだ』

今までのやりとりは携帯のマイクには入っていなかったらしく、拓斗にあっさりと電話を切られた。


「あら~お姉ちゃん。彼氏に電話切られちゃったねえ~さみしいだろ~おじちゃんが癒してやるよ。」

「やだ!やめて!」


「瑞希?瑞希!」

そういった声は拓斗ではなかった。

亮の声。


「瑞希!どうしたんだ?どこだ?瑞希!」

「…んッ亮!…りょ…う」

「こんなところにってお前!瑞希になにしてんだよ!」

亮はおやじを殴った。

「落ちつけよ!服脱がしただけだから!」

そういっておやじは逃げて行った。

「瑞希!」

「…ぅりょう!」

「こわかったな。」

私は着れるだけの服をきた。

Tシャツやカーディガンはぼろぼろに引き裂かれていた。

すると、亮は優しく亮のパーカーを着せてくれた。


「…亮のにおいがする。」



そして亮は私を強く抱きしめた。

「怖かったな。もう大丈夫だから。おれがいるから。」

「…うん。」

拓斗への思い、中村さんのこと、おっさんに襲われたこと、たくさん怖くてかなしくて。

その思いが一気にあふれて、私は拓斗の名前ではなく、亮の名前を呼びながら亮の腕の中で泣いた。

「そうやって瑞希がいつもおれの名前を呼んでくれたらいいのに。」

「…ん?」

「ううん?なんでもない。またなんかあったらおれに言えよ?瑞希がおれを読んだら、なにしててもおれ、瑞希んとこいくから。」

「…うん。」

亮のうでの中はとても落ち着く。

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